矯正装置の衛生トラブル解決法!専門医が教える対策
矯正装置の衛生トラブルとは?主な症状と原因
矯正治療を始めると、お口の中に新しい「住人」が増えることになります。ブラケットやワイヤー、マウスピースなど、これらの矯正装置は歯並びを整えるために不可欠ですが、同時に衛生面での新たな課題をもたらします。
矯正装置周辺は食べ物が溜まりやすく、通常の歯磨きでは届きにくい場所が増えるのです。この状況を放置すると、様々な衛生トラブルが発生します。
主な症状としては、歯の表面の白い脱灰(初期むし歯)、歯肉の腫れや出血、口臭の悪化などが挙げられます。特に装置の周りに食べ物が残りやすいブラケット矯正では、装置と歯の間に細菌が繁殖しやすくなります。マウスピース矯正でも、装置の内側に唾液や細菌が付着し、清掃が不十分だと同様の問題が起こります。
矯正装置の衛生トラブルが起こる主な原因は以下の3つです。
- 不適切な清掃方法(装置に合わせた専用の歯磨き方法を知らない)
- 清掃頻度の不足(食後の歯磨きを怠る)
- 矯正装置に適さない食習慣(粘着性の高い食品や硬い食品の過剰摂取)
これらの問題は見過ごされがちですが、放置すると矯正治療の効果を損なうだけでなく、治療後も残る永久的なダメージを引き起こす可能性があります。

ブラケット矯正特有の衛生トラブルと対策法
ブラケット矯正は、歯の表面に装置を直接装着するため、特有の衛生トラブルが発生します。最も多いのは、ブラケットの周囲に食べかすや歯垢が溜まることによる「脱灰」です。
脱灰とは、歯の表面のエナメル質からミネラルが失われる現象で、白い斑点として現れます。これはむし歯の初期段階であり、適切に対処しないと本格的なむし歯へと進行してしまいます。
また、ブラケットの周囲に細菌が繁殖すると、歯肉炎を引き起こすリスクも高まります。歯肉が赤く腫れたり、歯磨き時に出血したりする症状が現れることがあります。
これらの問題に対する効果的な対策をご紹介します。
ブラケット矯正中の正しい歯磨き方法
ブラケット矯正中は通常の歯磨きだけでは不十分です。以下の方法を実践しましょう。
- 矯正用の歯ブラシを使用する(ブラケットの上下から歯を磨ける特殊な形状)
- ワイヤーの上下を丁寧に磨く(45度の角度で小刻みに動かす)
- 歯間ブラシでブラケット周囲の清掃を行う
- 水流を使った口腔洗浄器(ウォーターフロッサー)で食べかすを除去する
特に重要なのは、ブラケットの周囲を念入りに磨くことです。ブラケットの上からだけでなく、下からも歯ブラシを当てるようにしましょう。
フッ素配合歯磨き剤の活用
矯正治療中は、フッ素配合の歯磨き剤を使用することが強く推奨されます。フッ素は歯のエナメル質を強化し、脱灰を予防する効果があります。
当院では、矯正治療中の患者さんには1450ppm以上のフッ素濃度を持つ歯磨き剤の使用をお勧めしています。就寝前の歯磨きでは、すすぎを最小限にとどめ、フッ素が歯に長く作用するようにするとさらに効果的です。
また、定期的なフッ素塗布も効果的です。当院では3ヶ月に一度の矯正装置調整時に、高濃度フッ素塗布を行っています。
マウスピース矯正の衛生管理と注意点
マウスピース矯正は取り外しができる利点がありますが、それゆえの衛生トラブルも存在します。最近では特にマウスピース型矯正装置の人気が高まっており、それに伴って衛生管理に関する相談も増えています。
マウスピース矯正特有の衛生トラブルには、装置内部の細菌繁殖による口臭や、装置の変色、さらには装置と歯の間に唾液が溜まることによる脱灰などがあります。
何よりも気をつけたいのは、装着時間の管理です。マウスピース矯正は1日20時間以上の装着が推奨されていますが、食後に歯磨きをせずに装着すると、食べかすが歯と装置の間に閉じ込められてしまいます。
マウスピース装置の正しい洗浄方法
マウスピース型矯正装置を清潔に保つためには、適切な洗浄方法が欠かせません。以下の手順を日常的に実践しましょう。
- 装置を外したら必ずぬるま湯ですすぐ(熱湯は変形の原因になるため避ける)
- 専用の洗浄剤または中性洗剤を使用して、柔らかい歯ブラシで優しく洗浄する
- 洗浄後は十分にすすぎ、清潔な状態で保管する
- 装着前に必ず歯を磨き、フロスや歯間ブラシで歯間も清掃する
特に注意したいのは、歯磨き粉での洗浄は避けることです。研磨剤が含まれている歯磨き粉は、マウスピースに細かい傷をつけ、そこに細菌が繁殖しやすくなります。

マウスピース矯正中の食事と飲み物の注意点
マウスピース矯正中の飲食に関する注意点も重要です。マウスピースを装着したまま飲食すると、装置内に食べ物や飲み物が入り込み、歯と装置の間に長時間留まることになります。
特に糖分を含む飲み物は要注意です。マウスピースを装着したままジュースやスポーツドリンクを飲むと、糖分が歯の表面に長時間接触し、むし歯のリスクが大幅に高まります。
水以外の飲み物を飲む際は、必ずマウスピースを外し、飲み終わった後に口をすすいでから装着し直すようにしましょう。
矯正治療中の食事制限と推奨される食習慣
矯正治療中は、装置の保護と口腔衛生の維持のために、いくつかの食事制限が必要になります。特にブラケット矯正では、装置の破損を防ぐための注意が必要です。
私が長年の臨床経験から見てきた多くのケースでは、食習慣の改善が衛生トラブルの予防に大きく貢献しています。逆に、不適切な食習慣が続くと、どんなに丁寧に歯磨きをしても問題が発生してしまうことがあります。
矯正治療中に避けるべき食品と、積極的に摂取すべき食品について解説します。
ブラケット矯正中に避けるべき食品
ブラケット矯正中は以下のような食品を避けるか、細かく切るなどの工夫が必要です。
- 硬い食品(ナッツ類、せんべい、固いパン、リンゴやニンジンの丸かじりなど)
- 粘着性の高い食品(キャラメル、餅、グミ、飴など)
- 歯に挟まりやすい食品(とうもろこし、肉の繊維、ポップコーンなど)
これらの食品は、ブラケットやワイヤーを破損させるリスクがあるだけでなく、装置に食べかすが残りやすく、衛生トラブルの原因になります。
矯正治療中におすすめの食習慣
矯正治療中は、以下のような食習慣を心がけましょう。
- 柔らかい食品を中心とした食事(煮込み料理、パスタ、豆腐など)
- 食べ物を小さく切って食べる習慣をつける
- 食後すぐに歯磨きをする(外出先では少なくともうがいをする)
- 水分をこまめに摂取し、口腔内を清潔に保つ
特に食後の歯磨きは、矯正治療中の衛生管理において最も重要なポイントです。外出先で歯磨きが難しい場合は、水でしっかりうがいをするだけでも食べかすを減らす効果があります。
矯正治療中のプロフェッショナルケアの重要性
自宅でのセルフケアだけでは、矯正装置の衛生管理は不十分です。定期的な歯科医院でのプロフェッショナルケアが、衛生トラブルを未然に防ぐ重要な鍵となります。
矯正治療中は通常よりも頻繁に歯科医院を訪れることになりますが、それは装置の調整だけでなく、口腔衛生状態のチェックと専門的なクリーニングを受ける貴重な機会でもあります。
当院では、矯正装置の調整に合わせて以下のようなプロフェッショナルケアを提供しています。
定期的なクリーニングと予防処置
矯正治療中は、3ヶ月に一度の頻度でプロフェッショナルクリーニングを受けることをお勧めしています。歯科衛生士による専門的なクリーニングでは、自宅でのブラッシングでは取り切れない歯垢や歯石を除去します。
また、クリーニングに合わせて高濃度フッ素塗布も行います。これにより、歯のエナメル質が強化され、脱灰やむし歯のリスクを大幅に減らすことができます。
特にブラケット矯正中は、装置の周囲に歯垢が溜まりやすいため、プロフェッショナルなクリーニングが欠かせません。マウスピース矯正の場合も、定期的なクリーニングで歯の表面をきれいに保つことが重要です。

衛生状態のモニタリングと早期介入
定期検診では、口腔内の衛生状態を詳細にチェックします。脱灰の初期兆候や歯肉の炎症などを早期に発見することで、深刻な問題に発展する前に対処することができます。
当院では、口腔内写真を定期的に撮影し、治療開始時と比較することで、衛生状態の変化を視覚的に確認しています。これにより、患者さん自身も自分の口腔衛生状態の変化を認識しやすくなります。
もし衛生状態に問題が見られた場合は、ブラッシング指導の強化や、場合によっては抗菌洗口剤の処方など、状況に応じた対策を講じます。
衛生トラブルが発生した場合の対処法
どんなに注意していても、矯正治療中に衛生トラブルが発生することがあります。早期発見と適切な対処が、トラブルの拡大を防ぐ鍵となります。
私の臨床経験では、衛生トラブルに気づいたときに迅速に対応した患者さんは、短期間で問題が解決し、治療全体への影響も最小限に抑えられています。
以下に、主な衛生トラブルとその対処法をご紹介します。
歯肉炎・歯周炎が発生した場合
矯正装置の周囲に歯垢が溜まると、歯肉炎を引き起こすことがあります。歯肉が赤く腫れたり、歯磨き時に出血したりする症状が現れます。
歯肉炎が発生した場合の対処法:
- ブラッシングとフロスの頻度と丁寧さを増やす
- 抗菌作用のあるマウスウォッシュを使用する(医師の指示に従って)
- できるだけ早く歯科医院を受診し、専門的なクリーニングを受ける
症状が改善しない場合や、痛みを伴う場合は、すぐに担当医に相談してください。重度の歯肉炎は、一時的に矯正治療を中断して対処する必要がある場合もあります。
脱灰・初期むし歯への対応
脱灰(白い斑点)が現れたら、早急に対策を講じる必要があります。これはむし歯の初期段階であり、適切に対処すれば回復可能です。
脱灰が発生した場合の対応:
- 高濃度フッ素配合の歯磨き剤を使用する(歯科医の指示に従って)
- 食後の歯磨きを徹底し、糖分の摂取を控える
- 歯科医院でのフッ素塗布を受ける
- リカルデント(CPP-ACP)などのミネラル補給製品を使用する(医師の指示に従って)
脱灰の進行を止め、再石灰化を促すことで、白い斑点を目立たなくすることが可能です。ただし、完全に元の状態に戻るわけではないため、予防が最も重要です。
まとめ:矯正治療を成功に導く衛生管理のポイント
矯正治療中の衛生管理は、治療の成功を左右する重要な要素です。適切な衛生管理を行うことで、治療期間中のトラブルを最小限に抑え、美しい歯並びと健康な歯を同時に手に入れることができます。
本記事でご紹介した衛生管理のポイントをまとめると:
- 装置の種類に合わせた適切な清掃方法を実践する
- 食後の歯磨きを徹底し、装置に食べかすを残さない
- 矯正治療中に適した食習慣を心がける
- 定期的な歯科医院でのプロフェッショナルケアを受ける
- トラブルの初期兆候に気づいたら早めに対処する
矯正治療は数か月から数年にわたる長期的な取り組みです。その間、日々の小さな努力の積み重ねが、最終的な治療結果に大きく影響します。
当院では、患者さん一人ひとりの口腔状態に合わせた衛生管理プログラムを提供し、定期的なメンテナンスを通じてサポートしています。矯正治療中の衛生管理でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
美しい歯並びと健康な口腔環境を同時に手に入れるために、ぜひ本記事の内容を日常のケアに取り入れてみてください。
より詳しい情報や個別のご相談は、クラリス歯科・矯正歯科までお問い合わせください。経験豊富な専門医が、あなたの矯正治療をサポートいたします。

著者情報
オーラルビューティークリニッククラリス歯科・矯正歯科院長 引野 貴之
経歴
神奈川歯科大学卒業
日本歯科大学附属病院にて勤務
都内の歯科医院にて副院長として6年勤務
学会・資格など
日本口腔インプラント学会会員(日本口腔インプラント学会認定100時間講習会修了)
公益社団法人 日本歯科先端技術研究所(JIAD)会員/JIAD インプラント認証医
インビザライン矯正 2024年 ブラックダイヤモンドドクター認定(国内約 10名)
スマイルトゥルー マウスピース型矯正認定取得
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